このページでは、家庭裁判所に対する民法第897条による祭祀承継者の指定の申し立てについて詳細に解説しています。
祭祀承継者の指定が無い場合や、親族などの利害関係者の話し合いでまとまらない場合には、民法第897条第2項に基づき、家庭裁判所に祭祀承継者の指定の申し立てをすることとなります。
[cc id=1106]
祭祀承継者の指定の申し立ての基礎知識
管轄
管轄は相続開始地となり、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地となります(家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第1項)。
家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第1項
相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判事件(別表第二の十一の項の事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC0000000052#1204
当事者
当事者については明文の規定はありませんが、民法の学説上は共同相続人全員が当事者になることが必要とされています。
審判の不服申し立て
審判の不服申し立ては、即時抗告です(家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第3項)。
家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第3項
相続人その他の利害関係人は、相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判及びその申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC0000000052#1204
祭祀承継者の指定の申し立て
申立権者
上でも見たように、祭祀承継者の指定の申し立てについて申立権者に関する法律上の規定はありません。
ですが、共同相続人は全員が必要的に審判に参加しなければならないとするのが法律・民法の学問上の有力な見解です。
そこで、一般的には、共同相続人の一人または数名が申立人となり、その他の共同相続人を相手方とする申し立てが基本的な形です。
なお、民法第897条は祭祀承継者の範囲を定めていませんので、共同相続人のみならず、当該祭祀財産の権利承継につき法律上の利害関係をもつ親族や、さらには血縁関係も婚姻関係も無い者も審判の当事者となることができます(束京家庭裁判所・1967年(昭和42年)10月12日審判(判例タイムズ232号246ページ)。
また、逆の視点に立てば、相手方が誰であるかわからない場合、相手方を指定しないで申し立てることも差し支えないとされます(束京家庭裁判所・1967年(昭和42年)10月12日審判(判例タイムズ232号246ページ)、東京家庭裁判所・1974年(昭和49年)2月26日審判(家庭裁判月報26巻12号66ページ)、松江家庭裁判所・2012年(平成24年)4月3日審判(家庭裁判月報64巻12号34ページ)。
申し立ての趣旨
主文・申し立ての趣旨記載例(祭祀主宰者を1人とする場合)
被相続人○○の所有の系譜、祭具及び墳墓の承継者を申立人△△と定める。
主文・申し立ての趣旨記載例(祭祀主宰者を複数とする場合)
被相続人○○の所有の別紙目録1の系譜、祭具及び墳墓の承継者を申立人△△と定め、被相続人○○の所有の別紙目録2の系譜、祭具及び墳墓の承継者を相手方▲▲と定める。
祭祀承継者の指定の申し立ての内容
一般的には自己を祭祀承継者に指定することを求める申し立てが多いと思われます。
ですが、相手方を承継者に指定することを求める申し立てでも構いませんし、これを認めた審判例もあります(福岡家庭裁判所柳川支部・1973年(昭和48年)10月11日審判(家庭裁判月報26巻5号97ページ) 。
これまではこのような申し立てはあまり見られませんでした。
ですが、これからは、改葬、墓じまいが増えていくと思われるなかで、「先祖代々のお墓」を承継するのを負担に思う方が、別の人を祭祀承継者とする申し立ても増えていくかもしれません。
系譜、祭具、墳墓の引き渡しを求める申し立て
家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第2項の規定に基づき、系譜、祭具、墳墓の引き渡しを求める申し立てをすることもできます。
家事手続法(2011年(平成23年)法律第52号)第190条第2項
家庭裁判所は、相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判において、当事者に対し、系譜、祭具及び墳墓の引渡しを命ずることができる。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC0000000052#1204
ご遺骨の引き渡し
昨今では、祭祀承継者を巡る紛争、例えば「誰が先祖代々のお墓を承継するのか」というものよりも、ご遺骨の引き渡し、所有権を巡る紛争、特に亡くなった方のご遺骨の所有権や引き渡しを求める紛争が増えています。
このブロックでは、このような「ご遺骨の引き渡し」について考察します。
ご遺骨、特に被相続人のご遺骨の所有権について、
- 民法第897条を準用して、祭祀承継者が所有権を相続する。
- 祭祀主宰者が、ご遺骨の所有権を原始取得する。
という二つの考えが対立していました。
この見解の対立が表面化する場面です。
ご遺骨の取得者の指定の申し立て
被相続人のご遺骨の所有権について、民法第897条を準用して、祭祀承継者が所有権を相続するという見解に立つ場合、その所有権の帰属が問題になった場合の紛争の解決としても、民法第897条を準用して家庭裁判所の審判を求めると考えるのが素直でしょう。
このとき民法第897条には直接規定されていませんが、準用して、家庭裁判所にご遺骨の取得者の指定を申し立てることもできるというのが法律・民法上の通説です。
これを認めた裁判例、審判例も存在します。
- 福岡高等裁判所・2007年(平成19年)2月5日決定(判例時報1980号93ページ)
- 東京家庭裁判所・2009年(平成21年)3月30日審判(家庭裁判月報62巻3号67ページ)
- 名古屋高等裁判所・2014年(平成26年)6月26日決定(判例タイムズ1418号142ページ)
- 大阪家庭裁判所・2016年(平成28年)1月22日審判(判例タイムズ1431号244ページ)
このときの主文・申し立ての趣旨は、「被相続人のご遺骨の承継者を申立人と定める。」となります。
ご遺骨の引き渡しを求める民事訴訟
被相続人のご遺骨の所有権について、祭祀主宰者がご遺骨の所有権を原始取得するという見解によれば、家庭裁判所の審判ではなく、通常の所有権に基づく引き渡し請求訴訟ができることになります。
これを認めた裁判例もあります。
- 最高裁判所第三小法廷・1989年(平成元年)7月18日判決(家庭裁判月報41巻10号128ページ)
ご遺骨の所有、引き渡しを巡る紛争は多い
先ほども述べたように、昨今では、例えば「誰が先祖代々のお墓を承継するのか」という紛争よりも、ご遺骨の引き渡し、所有権を巡る紛争、特に亡くなった方のご遺骨の所有権や引き渡しを求める紛争が増えています。
これは、民法第897条の制定過程や、条文には現れていないもので、墓地、お墓、ご遺骨というものについての時代を経た変遷が見られます。
価値の中心は「先祖代々のお墓」や「先祖代々のご遺骨」の承継よりも、「亡くなった方のご遺骨の所有権」に変動していると言えるでしょう。
このとき、和解の方法として、分骨が行われる場合もあります。
祭祀承継者の指定の申し立ての要件事実
祭祀承継者の指定の申し立ての要件事実は、「祭祀財産の承継者として相当であること。」です。
極めて抽象的な要件事実ですが、相当性を積み上げて判断を求めることになります。
ただし、戦前の明治民法の「家制度」につながる主張が裁判所に認められた例は見受けられません。
例えば、「氏が同一である」という主張や「長男である」という主張は裁判所に退けられています。
このような主張が、民法第897条の「慣習」と認められた事例も見受けられませんし、「家制度」につながる主張は排斥するという姿勢は裁判所で一貫していると言えます。
[cc id=205]

