お墓の承継・民法897条

 このページでは、お墓の相続、承継のルールを定めた民法第897条について、専門の国家資格者である行政書士が説明しています。

 お墓の相続、承継について定めている法律はたった一つ、民法第897条だけです。

 その意味では、民法第897条はお墓の相続、承継について最も大切な法律であり、根本となる法律です。

 お墓はどのように相続、承継されると民法で決まっているのでしょうか。

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お墓の承継とは

相続の大原則を定めた民法第896条

 人間が亡くなると、亡くなったときに所有していた財産、場合によっては借金などの負債も相続されるのが原則です。

 皆さん「遺産相続」ということばはご存知かと思います。

 民法は極めて条文の数が多い法律ですが、後半、第896条から相続のルールが定められています。

 相続については様々な法律がありますが、最も基本的なことを定めているのが民法(1896年(明治29年)法律第89号)第896条です。

民法(1896年(明治29年)法律第89号)第896条

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#3833

 「被相続人」というのも法律用語ですが、簡単に言えば「亡くなった方」です。

 人が亡くなると、その相続人が、亡くなった方の全ての権利と義務を承継する、というのが民法の相続の大原則です。

お墓の相続を例外とする民法第897条

 しかし、お墓については一般的な財産とは異なり特別な相続をすることが民法で定められています。

 先ほど確認した民法(1896年(明治29年)法律第89号)第896条の次の条文、民法(1896年(明治29年)法律第89号)第897条を見てみましょう。

民法(1896年(明治29年)法律第89号)第897条

第1項
 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

第2項
 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#3836

 系譜(家系を表示するもの。例を挙げると、先祖代々を示した家系図です。)、祭具(お仏壇などの仏具や、神棚など。)、そして墳墓(お墓)の所有権は、民法第896条が定める一般的な相続の対象にはならず、新たな「祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継するとされています。

 この「祖先の祭祀を主宰すべき者」のことを、一般的には省略して「祭祀主宰者」と呼んでいます。

 このような、お墓などの相続を民法上の用語から「祭祀承継」と呼ぶことも多いです。

 ひとまず、「お墓については、一般の相続の法律は適用されず、『祭祀主宰者』が承継する。」という特別な法律があることを押さえておきましょう。

祭祀財産、ご遺体、ご遺骨の相続

 祭祀財産、ご遺体、ご遺骨は民法第897条により祭祀主宰者の所有に属するものとして、相続の対象にはならないとされています。

 ただし、祭祀財産、ご遺体、ご遺骨についても、相続人全員の合意により遺産分割事件の対象とすることができるとする民法上の学説もあります。

 この祭祀財産、ご遺体、ご遺骨について、相続人全員の合意により遺産分割事件の対象とすることができる学説は争いもあるところですが、これから見るように祭祀財産、ご遺体、ご遺骨を承継するのは相続人に限りません。

 このような相続人以外のものが自己の承継を主張する場合には家庭裁判所に審判を求めることができますので、さくら行政書士事務所もひとまずこの学説に賛成します。

墓所の相続

 なお、墓所については民法第897条で定められていません。

 「墳墓」(お墓)と「墓所」(お墓が建っている場所)は法律上別のものであることは極めて重要です。

 民法第897条で定められているのはあくまでも「墳墓」(お墓)であることを再確認してください。

 そこで、墓所(お墓が建っている場所)については「民法第896条により相続財産となる」のか、それとも「民法第897条が準用されて相続財産とならないで、祭祀財産として祭祀主宰者が承継するのか」が民法上の論点となっています。

 墓所の所有権、および、墓所の使用権の相続について裁判例は、「墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲で、祭祀財産である」として相続の対象にはならないと判示しています(広島高等裁判所・2000(平成12年)年8月25日判決(判例時報1743号79ページ、判例タイムズ1072号229頁、民商法雑誌142巻6号106ページ。)) 。

 墳墓は民法第897条によって祭祀主宰者が承継するが、墓所は民法第896条によって相続財産となる、として分けたら権利関係があまりに複雑になり過ぎてしまうでしょう。

 さくら行政書士事務所も、ここは「墳墓と墓所についての権利」は一体的に考えるべき場面だと考えますので、裁判例に賛成です。

お墓の相続人、承継者の範囲

 では、さきほどの民法第897条の条文を見ながら、お墓の承継、祭祀承継について定めた民法の規定を確認していきましょう。

お墓を相続できる人、お墓を承継できる人について、民法は一切範囲を定めておらず、誰でも承継できる

 まず、お墓の相続人、承継者の範囲は一切定められていないことが重要です。

 お墓の相続、承継は血縁者や親戚に限られるものではなく、民法上は誰でも相続、承継することができます。

明治時代の民法は「家制度」を支えるものとして、お墓は「家督相続人」が承継するものと定めていた

 この点、明治時代に定められた戦前の民法では「系譜、祭具及ヒ墳墓ノ所有権は家督相続ノ特権ニ属ス」とされていました(明治民法第987条)。

 この規定は明治民法の「家制度」を前提に、系譜、祭具および墳墓を「家」の戸主となる「家督相続人」が単独で承継することを定めるものであり、戸主が長として司る「家」の系譜、いわゆる「家系」を縦に連ねる「家の連続性」を象徴するものであったと言われます。

 単純な条文ですが、明治民法第987条が定める「お墓の相続」は明治民法の「家制度」の一つの要となるものでした。

明治民法第987条から現行民法第897条への変化は、戦前の「家制度」を否定する大きな変化を示している条文

 しかし、皆さんご存知のとおり、戦後は「家制度」は解体され、「家督」や「戸主」という概念も無くなりました。

 そこで、戦後の民法、現在の民法ではお墓は「家督相続人」が相続するものではないものとし、お墓の相続人、承継者について範囲を定める規定は削除されました。

 このように、お墓の相続人、承継者の範囲は一切定められていないことが重要ですのでぜひご確認ください。

 明治民法第987条から現行民法第897条への変化は、戦前の「家制度」を否定する大きな変化を示している条文です。

「お墓の承継人・相続人を、亡くなった使用者の親族に限る」とする墓地使用規則の有効性

 改葬、墓じまいの実務においてもこの視点は重要です。

 お寺や霊園の墓地使用規則や、公営霊園について墓地使用者が亡くなった際の墓所の承継について「お墓の承継人・相続人を、亡くなった使用者の親族に限る。」とする場合が見られます。

 このようなお墓の承継者を使用者の親族に限る旨の規定は有効なのか疑問があるところです。

 さくら行政書士事務所が知る限り、このような規定の有効性が争われた裁判例はありませんが、この裁判はそのうち必ずあると考えます。

お墓の相続人、承継人の決定方法

民法第897条が定めるお墓の相続人、承継人の決定方法

 上述したとおり、戦前の明治民法ではお墓は「家督相続人が相続する」と明治民法第987条で規定されていました。

 では、戦後の現在の民法ではお墓の相続人、承継人の決定方法はどのようになっているでしょうか。

 これについては、民法第897条が明文で定めています。

 つまり、

  1. 被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者(民法第897条第1項ただし書き)。
  2. 慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者(民法第897条第1項本文)。
  3. 被相続人の指定が無く、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める(民法第897条第2項)。

 という順序でお墓の相続人、承継人が決められることになります。

実際には民法第897条の条文には無いが「親族などの利害関係者間の合意」によって定められているのが現実

 ただし、民法第897条の条文にはありませんが、実際にはお墓の相続人、お墓の承継人は、ほとんどの場合、「親族などの利害関係者間の合意」によって定められているのが現実です。

 この記事をご覧の方でも「そういえば、親が亡くなった時に、親戚で話し合って決めた。」「じゃあ、長男が、って自然に決められていた。」という事例が多いと思います。

 このように民法第897条の条文にはありませんが、ほとんどの場合、「親族などの利害関係者間の合意」によって定められているのが現実です。

被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者

 それでは次に、民法第897条の規定を具体的に検討していきます。

 まず、お墓などの使用者、所有者が亡くなったとき、この方が「お墓を承継する人」を指定していた場合は、この指定された方がお墓を承継します(民法第897条第1項ただし書き)。

「お墓を承継する人の指定」の方式は自由

 この「お墓を承継する人の指定」はもちろん遺言書によって行うことができます。

 この他、生きているときに口頭で行っても、どんな方法で行っても構わないとされていて、指定の方式は定められていません。

「お墓を承継する人の指定」が裁判所で争われる紛争、トラブルは多い

 この「お墓を承継する人の指定」の有無や有効性が審判(ひとまず「審判」とは、家庭裁判所で行う裁判のようなもの、とご理解ください。)で争われる場合も少なくありません。

 このとき、裁判所は、お墓の承継は被相続人の死後に効力を生じるものを重視して、「表意者の真摯さ、表示内容の明確さにおいて、一般の意思表示より慎重にその存在を判断すべき」であるとしています(前橋家庭裁判所・1991年(平成3年)5月31日審判(家庭裁判月報43巻12号86ページ))。

 なお、この事件では前橋家庭裁判所は「墓を守ってくれ。」という発言を「被相続人による祭祀承継者の指定である。」と判断しています。

 また「一緒の墓に入ろう。」という発言を「被相続人による祭祀承継者の指定である。」と判断したと考えられる裁判所の判決もあります(高知地方裁判所・1996年(平成8年)10月23日判決(判例タイムズ944号238ページ))。

 なお、裁判例によると、被相続人が「祭祀承継者を相続人らの協議によって定める」と指定した場合は、相続人らが協議によって祭祀承継者を定めることもできるとされます(広島高等裁判所・2000年(平成12年)8月25日判決(家庭裁判月報53巻10号106ページ))。

 微妙な解釈となってご自身の亡くなった後に家庭裁判所で争われるようなトラブルが発生するのは皆さん嫌だと思いますので、祭祀承継者を指定する場合には明確な書面で行うことをさくら行政書士事務所ではお勧めしています。

 もちろん、さくら行政書士事務所では、祭祀承継者を指定する書面の作成についてもお手伝いを受任いたします。

慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者

 以上のような被相続人の祭祀承継者の指定が無い場合は、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継することになります(民法第897条第1項本文)。

 ただ、この「慣習」は非常に漠然としています。

 皆さん「お墓を承継する慣習」と言われてどのような想像をするでしょうか。

 考えられる「慣習」として、「亡くなった方のお子さん。年長のお子さんと年少のお子さんがいた場合には、年長のお子さん。」さらに踏み込んで言えば「亡くなった方の長男。」を挙げる方もいらっしゃるかもしれません。

 先ほど確認したように、戦前の日本、明治民法では「家制度」を前提に、お墓は「家」の戸主となる「家督相続人」が承継するとされていました。

 しかし、裁判所においては、「このような考えは戦前の明治民法のものであり、封建的な家族制度を廃止し、個人の尊重や自由などを根源的価値として制定された現在の民法のもとでは慣習として採用できない。」として否定されています(大阪高等裁判所・1949年(昭和24年)10月29日決定(家庭裁判月報2巻2号15ページ))。

 この決定(ひとまず、裁判所の判決とほぼ同じものとご理解ください。)は1949年という戦後直後、現在の民法が施行された直後のものですが、現在でもこの決定がリーディングケースとなっています。

 これ以降、裁判所が「慣習」を明確に認めた事案は今のところ一件もありません。

 裁判所は戦前の「家制度」の復活につながるような「慣習」の主張は全て認めていません。

 むしろ裁判所は「慣習は存在しない。」と述べています(松江家庭裁判所・2012年(平成24年)4月3日審判(家庭裁判月報64巻12号34ページ)、さいたま家庭裁判所・2014年(平成26年)6月30日審判(判例タイムズ1416号391ページ)、大阪家庭裁判所・2016年(平成28年)1月22日審判(判例タイムズ1431号244ページ)など多数。)。

 昨今の「葬送の多様化」「祭祀の多様化」を考慮すると、今後裁判所に認められる「慣習」が形成される可能性は低いと考えられます。

被相続人の指定が無く、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める

 被相続人による指定も無く、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所が祭祀の承継者を定めることになります(民法第897条第2項)。

祭祀承継者指定の申立て

 具体的には、家庭裁判所に「祭祀承継者指定の申立て」をすることで祭祀承継者を定めることになります。

 家庭裁判所が祭祀承継者を定める場合について、法律上の判断基準は何もありません。

 家庭裁判所の審判例によると「現行民法親族編、相続編制定の趣旨に徴し、いたずらに,家制度の復活乃至家父長制度の維持助長となることを避けるべき」とされています(鳥取家庭裁判所・1967年(昭和42年)10月31日審判(家庭裁判月報20巻5号129ページ))。

 これは上述した、家制度の復活につながる「慣習」の存在を否定するものと一貫しています。

 家庭裁判所はこのような理念のもと、「一切の事情」を考慮して判断しています。

 具体的には、被相続人との身分関係や生活関係、被相続人の意思(この点では「被相続人の指定」とまでは評価できない場合でも、極力、その遺志を汲み取ります。)、祭祀承継の意思や能力、お墓との居住地の距離、それまでのお墓の管理への協力などが考慮されています。

 また、最近の裁判所の判断傾向として、被相続人に対する「愛情」「感謝」のような心情を重視しています(東京高等裁判所・2006年(平成18年)4月19日決定(判例タイムズ1239号289ページ)、福岡高等裁判所・2007年(平成19年)2月5日決定(判例時報1980号93ページ)など。)。

 さらには「被相続人が生きていて意思表示をするとしたら、祭祀承継者に指定したであろうと思われる者」を基準として挙げる例も増えています(東京高等裁判所・1994年(平成6年)8月19日決定(判例タイムズ888号225ページ)、東京高等裁判所・2006年(平成18年)4月19日決定(判例タイムズ1239号289ページ))。

 このような傾向は従来の「先祖・祖先代々のお墓」というよりも、「亡くなった墓地使用者との関係」を重視するようになっていると評価されます。

改葬、墓じまいの実務でも非常に重要

 この家庭裁判所の審判は、改葬、墓じまいの実務でも非常に重要になります。

 「いったい、誰がお墓を承継して、現在お墓を所有しているのか。」が確定しないことには改葬も墓じまいも何も始まりません。

 例えば、お父さんが亡くなった事案で、お墓の承継を争う二人のお子さんがいたとします。

 このとき、一人は現状のままお墓を維持することを望み、もう一人は改葬、墓じまいをすることを望んでいる事案もあります。

 どちらがお墓を承継するかで、改葬、墓じまいができるかが決まります。

 逆に言えば、改葬、墓じまいをしようと思っても、自分がお墓の承継人でなければ行うことはできません。

 お墓が誰に承継されるかは、改葬、墓じまいでも極めて重要な意味をもちます。

親族などの利害関係者間の合意

 以上で確認した三つが、民法第897条の規定でした。

 しかし、先ほども確認したように、実際には「親族などの利害関係者間の合意」で決めている事案が最も多いのが現実です。

 このような「親族などの利害関係者間の合意」は認められないとする裁判所の判断もあります(広島高等裁判所・2000年(平成12年)8月25日判決(高等裁判所民事判例集53巻2号109ページ))。

 ですが、当事者間の有効な合意であることを前提に認める見解が有力です(東京高等裁判所・1987年(昭和62年)10月8日判決(家庭裁判月報40巻3号45ページ))。

さくら行政書士事務所の意見

 現実に広く行われているものを「認めない」とする広島高等裁判所の判断は極めて衝撃的ですが、さくら行政書士事務所はこの裁判所の判断には賛成しません。

 利害関係者が有効に話し合いで合意していれば、この合意について第三者が効力を否定する実益はありません。

 また、もし「話し合いは無効だ」と考える利害関係者がいたり、話し合いに参加していない利害関係者がいたりする事案では、その人は家庭裁判所に祭祀承継者指定の申立てをすることができます。

 その祭祀承継者指定の申立てによって、初めて家庭裁判所が関与すれば問題は無いと考えられます。

 従って、さくら行政書士事務所も通説と同様に、「親族などの利害関係者間の合意」で祭祀承継者を決められると考えます。

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大学院レベルの「墓地行政法規」の法律知識と、圧倒的多数の代理、代行の受任実績をもつ、申請実務に精通した専門の行政書士事務所

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